COLUMN machimoriのブログ

「まちごと居住」で住まいの自由度を高めたい。マチモリ不動産をスピンアウトした理由

2019.11.10 / 7,328 views

machimoriは、今年3月に不動産事業をスピンアウトし「マチモリ不動産」をスタートさせました。代表に就任したのは、7年ほど前から複業として熱海に関わり始め、2015年からはmachimoriの取締役を務める三好明。なぜ今回、別会社としてスタートしたのか、マチモリ不動産が掲げる「まちごと居住」とはどういうものなのか、machimori代表・市来との対談形式で想いを聞きました。

熱海の住宅問題を解消したい

ーーマチモリ不動産では、どのような事業を考えているのでしょう?

三好 3つの柱として、「熱海の住宅不足解消」「住まい方の自由度向上」「熱海と東京の二拠点を行き来する人々への住まい提供」に取り組んでいきたいと思っています。

熱海市は空き家率が50.7%と、市内にある建物の約半数が空き家という状況にもかかわらず、市外から働きに来ている人や移住希望者からは、快適に住めるところがないという声をよく聞くんですよ。なのでまずは、環境を整えて住みやすい場所をつくること。実際にいま、大館ビルという築65年の建物の一室をリノベーションして、熱海で期間限定で働く方々や横浜と熱海を行き来する二拠点居住者に貸し出しはじめました。

今回リノベーションをした築65年の大館ビル。熱海銀座の突き当たり、反対側はすぐに海という好立地です。

大館ビルの一室をフルリノベーション。部屋からは熱海銀座が見渡せます。

三好 そうやって住みやすい住環境を作ると同時に、熱海に住む人や訪れる人がまちなかのさまざまな場所を気軽にシェアして、豊かに過ごせるような仕掛けが作っていければと思っています。

市来  マチモリ不動産で何をすべきかを三好さんと突き詰めていった時に、machimoriはこの熱海エリアに限定して開発をしているけど、マチモリ不動産は別に熱海に絞らなくてもいいという話をしたんです。観光だけではなく、「多様な関わり方で熱海のことを好きになってもらう人を増やす」という、これまでmachimoriが熱海でやってきたことを不動産というソリューションを通じて周辺にも広めていけるといいよねと。

ーーなぜmachimoriのいち事業としてではなく、マチモリ不動産としてスピンアウトしたのでしょうか?

市来 これまで7、8年熱海の課題解決に取り組んできましたが、僕らのスピードに対して課題の進行のほうが早かった。事業スピードをより加速させていくにはやはり人材育成が必要で、それには三好さん自身が経営者として取り組んでもらって成長を促すのが一番なんじゃないかと考えたんです。

特に住宅不足の問題はmachimori立ち上げ当初から特に課題意識がありつつも、なかなか手が付けられなかったところだったんです。そんな中、不動産管理の知見を持つ三好さんが入り、今回、自分ごととして「まちごと居住」というプランを提示してくれた。これは一部門としてではなく、自分で会社をつくってやってもらうほうがいいなと思いました。

住宅コンプレックスから生まれた「まちごと居住」

ーー「まちごと居住」というのはどのようなものなのでしょう。

三好 一言でいうと、まちを1つの大きな家と見立てた豊かな暮らし方です。プライベート空間としての自分の部屋以外に、リビングやダイニング、お風呂、ワークスペースといった共用部分がまちなかにいくつもあるようなイメージです。

1人ですべてを所有するのは難しくても、シェアすることで気分に合わせて選べるようにしようという考え方で、たとえばくつろぎたいときはカフェやゲストハウスMARUYAのリビングスペースを使ったり、仕事をしたいときはコワーキングスペースnaedocoを使ったり。単に施設を用意するのではなく、ひとつひとつの場所に人のにおいがするというか、その場所に愛着を持つ人たちがいて、心地よい距離感で利用できて交流できると面白いと思うんです。

市来 このプランを聞いた時、僕が持っていたイメージと同じだなと感じたんですよね。僕が理事を務めている、まち全体を楽しんでもらう「日本まちやど協会」の発想もこれに近いですし、実際にゲストハウスMARUYAやまち歩きという体験を通して“まちに泊まる”楽しみ方を提示してきました。

市来 「まちごと居住」は宿に泊まる人だけでなく、住む人もまちなかをシェアしていくというのが面白いと思ったし、こういう取り組みを、想いを持って進めてくれる人が現れたということが非常にうれしいです。

ーーどんな背景があってこのアイデアが生まれたんですか?

三好 高校3年生の時にカリフォルニアに留学したのですが、そこの住環境がとにかく良かったんですよ。リビングもキッチンも広くて、寝室ではダブルベッドに1人で寝られるし、庭があって周辺には公園もあって。向こうでは特別所得が高い人たちでなくても、そういう豊かな環境がありました。

そんな環境で1年を過ごして日本に帰ってきた時、日本の住環境の悪さに気づいちゃったんですよね。狭いし、実家は線路が近かったので電車が通るたびに騒音や揺れもあって。私の親はそこそこ大きい企業に勤めていたのですが、それでもこの現状かと。日本の住宅環境の限界が見えてしまった。子どもの頃から家にいたくなくて、できるだけ外で時間を潰していたんですよね。そういった思いが、留学経験を通じて住宅コンプレックスみたいになっていったんです。

三好 でも、熱海に来てふと気づいたのですが、ちょっと移動すればnaedocoのような広いシェアオフィスで仕事ができて、MARUYAに行けば心地よいリビングスペースがあって、まちには温泉もある。住宅というプライベート空間さえ整えれば、あとはまち全体を「家」として使うことで、カリフォルニアよりも広い空間で豊かに暮らせるんじゃないかと。そういう住環境を提供できるとしたら、これは自分がやりたい、そう思ったんです。

ーー熱海のまちと三好さん自身の課題感が、そこでつながったんですね。それで起業することに?

三好 もともとは起業なんて全く考えていなかったんです。ただ、創業支援プログラム「99℃~Startup Programfor ATAMI2030~」(通称:99℃)に参加することになり、「まちごと居住」の原型となる事業プランをmachimoriでやる前提で考えていたら、メンターから「全然リアリティがない。いくらだったら自分のお金でやるの?」って聞かれたんです。それで自分で出せる金額を考えてその範囲でできるプランに練り直したら、「自分でできるのに、なんでやらないの?」と。そう言われて、確かにやらない理由がなかった(笑)。「そうか、自分がやればいよいのか」ってストンと腹に落ちたんですよね。

machimoriのリレーションも活用して客付け

ーースタートしたばかりのマチモリ不動産には、今後どんな課題があるのでしょう。

三好 空き家問題の背景には、仲介業者に依頼しても長年にわたり空き家の状態だと家賃が下がりすぎてしまい、入居者と良いマッチングが生まれづらかったり、そもそも建物オーナーがリフォームに投資する余裕がなかったりという問題があります。せっかく投資したのに近隣トラブルやコミュニケーションのロスが起きるくらいであれば、そのまま空き家にしておこうという心理が働くんです。

市来 また、熱海の賃貸住宅は単に古いだけでなく、もともと旅館やホテルなどの従業員が使う前提だったという特殊な事情から、風呂なしなどの安くて機能性を抑えた物件が多いんですよね。お風呂なら宿で入ってきますから、必要なかったわけです。

三好 やはり最低限の機能は必要なので、それをそのまま貸そうとしても難しい。なので僕らの課題としては、まずは建物オーナーさんに安心してもらえる良質な入居者を集めること。見つかれば、この人が住みたいからと交渉してオーナーさんにリノベーションをしてもらう。あるいは、投資できない場合はマチモリ不動産が間に入ってリノベーション費用を負担し、サブリースの形をとって賃料の一部を費用に充てていく。後者の形をとる場合は、リノベーション資金の調達も課題になるため、どういう物件だったら、どういうオーナーさんだったらマチモリ不動産が負担をしてでもやるべきかの線引きを、しっかり考える必要はあります。

ーー良質な入居者を集めるというのは具体的には?

三好 MARUYAやnaedocoの利用者さんなど、今までmachimoriが築いてきたリレーションをうまく利用して人の顔が見える状況で紹介するということは考えています。

市来 打ち出し方も大事ですよね。入居者がスムーズにまちに溶け込むためには、物件を探す前にコミュニティに出会っておくことが重要だと思うので、そういう入り口をどう仕掛けていくかは、しっかりチームで考えていきたい。

三好 メインターゲットは20代から30代の近隣のまちから熱海の職場に通っている人、熱海に興味を持ってくれた人、私のように東京から離れて暮らしてみたいと思う一般的なサラリーマンも含まれます。いま、先ほどの大館ビル以外にも、2件のリノベーションを進めています。有り難いことにすでに入居者も決まっている物件もありますが、今後ターゲットとしている人たちにしっかりと「まちごと居住」の面白さを伝えていきたいですね。

もっとまちなかで過ごしたくなる熱海へ

ーーこうしたマチモリ不動産の取り組みが進むと、熱海はどう変わっていくんでしょうか?

三好 よく聞く話なのですが、熱海は坂が多いし、買い物に不便だし、車がないと生活できないし、とにかく住みづらいと。だから不動産屋も地元の人も熱海でなく近隣の町に住むことを勧めるんです。
でも私は真逆で、熱海は「暮らすことこそ面白いまち」だと思っています。まちなかに住めば実は車もいらないし、スーパーだけではなく昔ながらのお店も残っていて日々の買い物が楽しかったり、まちを歩いていて知っている人とすれ違って小話をするちょっとしたこととかを豊かだなと感じることができます。あとは何よりも多様な価値観を持つ人がいて面白いんです。何も「居を構える」ということでなくても良いと思っていて、もっと気軽に、年に何回か熱海に来るような「暮らし方」があってもいい。そんな多様な滞在を楽しむ人が増えて、さまざまな価値観が交じり合って新しいライフスタイルが生み出されていくまちになると思うし、そう認識されていくのではないかと。「観光する」というよりも「暮らす」ことこそが面白いまちと認識されていくんだと思います。

市来 住む人が増えて必要な機能や、公園のように暮らしを豊かにする空間にもっと目が向くようになるので、公共空間が豊かになっていくと思いますね。子どもも増えるでしょうし、子どもからお年寄りまで幅広い層が訪れる場所ができて、もっとまちなかで過ごしたくなるんじゃないかなと。

今、machimoriは熱海のサードプレイス化を掲げていますが、まずファーストプレイスとして利用する人がいてそこにコンテンツがあるから、サードプレイスとして利用する人も集まってくるんだと思うんです。まちなかに人が増えて、観光客向けではないお店もできてきて、結果的にはそこに観光客もやってくる。そんなまちになっていくんじゃないかなと思います。

取材・文:福田さや香、写真:岡田良寛、yuuki honda(室内写真)

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